慰謝料、離婚責任をベースに算定(島田雄貴)=1988年7月

離婚による調停、裁判の判決、慰謝料請求について島田雄貴が報告します。

離婚調停までの実例

横浜市に住む林真由美さん(38)(仮名)は離婚を決意した。夫は、42歳。電機メーカーに勤める普通のサラリーマンだが、数年前から酒を飲むと、真由美さんや小学生の長女に暴力を振るう。会社で面白くないことがあるようで、最近は毎晩のように飲んで帰宅する。30万円ほどの月給の大半は酒代に消える。

しかたなく真由美さんは生活費のためパートに出た。ところが、夫は、パート勤めに反対し、ますます不機嫌になり、さらに暴力を振るう。長女も怖がって逃げ回るような状態になった。

弁護士からの提案

弁護士事務所にかけ込んだ真由美さんに、弁護士は、家庭裁判所へ夫婦関係調整(離婚調停)を申し立て、夫に対し、慰謝料を請求するようアドバイスした。

慰謝料とは

慰謝料は、一言でいえば「精神的苦痛に対する損害賠償」である。飛行機事故の遺族に支払われるものもあれば、名誉を傷つけた相手に請求する場合もある。

上記の実例のように、離婚の時、妻が夫に(夫が妻に)請求するケースが多い。その額だが、裁判では、「離婚に至った責任の程度」を基本にしたうえで、婚姻期間、社会的地位、収入、財産分与の額、子供をどちらが引き取るか……など様々な要因を総合判断して決める。

判決での慰謝料の相場

有名人の離婚劇で「ン千万円の慰謝料」などと騒がれることがある。協議離婚の場合は、ときにこのような高額の慰謝料となることがある。しかし、裁判に持ちこまれたケースをみると、その額は意外に少ない。高額の例としては、さる1980年(昭和55年)の会社社長に対する判決や1975年(昭和50年)の開業医への判決(いずれも1000万円)が知られている程度。一般的には100万円から300万円あたりが相場である。

慰謝料の決定

真由美さんの場合、離婚責任については、弁護士は、「100パーセント夫が悪い」と判断。また、夫に預金がなく、家も借家で分与財産がゼロに等しいことなどを勘案し、1000万円を要求するよう勧めた。これに対し、調停の中で、家事調停委員は、300万円を提示、夫の支払い能力を考慮し、5年間の分割払いと決まった。相場からみると、この場合、300万円は真由美さんにとってはまずまずの額。夫も合意した。

慰謝料の請求にも3年の時効がある

離婚することには夫も妻も合意しているものの、慰謝料の額や財産分与の割合でもめているケースがよくある。こうしたときは、まず協議離婚をしてから慰謝料の額などをあとで交渉することも可能だ。

しかし、前回の「六法善処」で紹介した財産分与の家裁審判請求に期限(2年)があるように、慰謝料の請求にも3年の時効がある(民法724条)。

子供の養育費

子供の養育費は必要のある限りいつでも請求できるので、離婚のときはまず財産分与と慰謝料を決めた方がよい。

また、慰謝料は、「損害の補てん」という性格から、贈与税はかからない。ただし、これは、「社会通念上妥当と思える額のことで、数億円もの慰謝料をもらったときなどは、贈与されたものとみなし、課税することがある」(国税庁)という。

調停で不調の場合は地裁に

東京弁護士会・弁護士

離婚のときの慰謝料は、本来精神的損害に対する賠償で、財産の清算を基本とする財産分与とは性格が異なります。だから、いったん別れた妻に金銭を払い、もう終わったと思っていると、改めて慰謝料を別に請求されることがあります。

ただ、調停では、両者を一緒にして「財産分与ならびに慰謝料としていくら」などとすることもあります。

もし、調停が不調に終わった場合でも、請求すれば家庭裁判所は審判で、財産分与の支払いを命じてくれますが、慰謝料の請求は地方裁判所(請求金額90万円までは簡易裁判所)に訴えることになっています。

スポーツ事故、危険防止怠れば賠償責任=1988年8月(島田雄貴)

「都内に住む会社社長の北野修さん(56)(仮名)は久しぶりの休日、コースに出てゴルフを楽しんでいた。ところが、突然、ゴルフボールが背中を直撃、背骨を打ってけがをした。北野さんは病院で治療を受け、仕事を休んだ。」この実例を元に、島田雄貴がニュース短信として配信します。

ゴルフ場でボールが背中直撃

後続グループでプレーしていた会社員、山川豊さん(38)(仮名)のティーショットがあたったものだ。コースにはなだらかな起伏があり、山川さんからはブラインドになって北野さんの姿が見えなかった。コースは込んでいた。山川さんはキャディーに一応、聞いたうえでクラブを振った。ただ、このキャディーは特に前方を確認せず「どうぞ」と答えたという。

競技中に発生した事故の責任はだれが負うのか

後日、北野さんは治療費や休業による逸失利益などの支払いを山川さんやゴルフ場に持ち掛けた。が、どちらも「こちらには責任はない」との返事。北野さんは弁護士に相談して損害賠償請求の裁判を起こすことにした。余暇を利用してスポーツを楽しむ機会がふえているが、競技中に発生した事故の責任はだれが負うのだろうか。

相手にけがをさせるといった不法行為

損害賠償の請求が認められるのは、相手の不法行為や契約違反があったために損害をこうむった場合(民法709条、同415条)である。不法行為とは、故意や過失によって他人の権利を侵害、それによって損害を生じさせることだ。無論、相手にけがをさせた場合も権利を侵害したことになる。

ただスポーツの場合は、相手にけがをさせるといった不法行為があっても、お互いに認めあったルールを守っていれば、「許容された危険」とみなされ、責任は負わないですむと考えられている。

スポーツにはある程度の危険性はつきもの

スポーツにはある程度の危険性はつきもの。プレーヤーはそれを予想したうえで、お互いがルールを守るとの信頼関係にもとづいて競技している、との認識。

山川さんの言い分は「キャディーの指示に従って行動していたので私には責任はない」というものだった。だが、弁護士は「キャディーは競技の援助者にすぎない。競技中の安全確保は最終的にはプレーヤーの責任」と山川さんの誤解を指摘する。混雑しているゴルフ場なら、プレーヤー自身に、前のプレーヤーがボールの届く範囲から離れたことを確認するのはルール、つまり、危険防止の注意義務を怠った点で、山川さんは不法行為責任をまぬかれない。

スポーツにはある程度の危険性はつきもの

では、キャディーに落ち度はないのか。利用者とゴルフ場の間にはコース利用の契約関係があり、ゴルフ場は利用者の安全を確保する義務を負っている。だから、従業員であるキャディーには、プレーヤーの安全を守る注意義務があるといえる。山川さんについたキャディーは実際にブラインドになっているところに人がいないかどうか確認する必要があったわけだ。

ただし、民法715条では、こうした場合、使用者が被用者にかわって損害賠償の責任を負うと定めている。責任はキャディーではなくゴルフ場にあるというわけだ。

約180万円の支払いを命じる判決

裁判で、北野さんは、山川さんとゴルフ場の両者を相手に、けがの治療費、休業中の逸失利益、慰謝料など合計約550万円の支払いを求めた。判決は、ほぼ北野さんの主張を認め、逸失利益などが減額されたが、両者に合計で約180万円の支払いを命じたのである。

見るスポーツでも不備あれば
東京弁護士会 弁護士

上記のケースは“するスポーツ”の例ですが、“見るスポーツ”の場合でも、これを参考に考えることができます。プロ野球を球場で観戦中、ファウルボールが飛んできてけがをしたとします。球場が十分に広くネットなどもきちんとしていれば、スポーツ観戦にもある程度の危険性が伴っていることを考えると、直接の加害者である選手に責任を負わせることは基本的にはできないと考えられます。プロ野球の入場チケットには「ファウルボールなどで負傷した場合、応急処置はしますが、その後の責は負いません。十分ご注意を」などと注意書きがあるのはこのためです。

しかし、記載があるからといってどんな場合でも免責されるとは限りません。球場が破れたネットをそのままにしておいたためにボールが当たったといったケースでは話が違います。球場側に落ち度があったわけで、チケットの文言とかかわりなく、球場側は責任を負わなければなりません。

離婚の相談窓口開設へ 第二東京弁護士会

1984年12月

「離婚のお手伝いをします」--自立する女性の増加などに伴い、わが国の離婚件数は年々増える一方だが、第二東京弁護士会(野宮利雄会長)は、近く弁護士の資格を持つスタッフが、別れ話を手際よく、割安でまとめるのをモットーにした常設の「離婚問題相談コーナー」を設ける構想を固めた。弁護士会が、離婚問題を正面に据えて組織的に取り組むのは全国でも初めて。離婚紛争は今や、婚姻状態を何とか継続させる方向から、いかに手際よく離婚させられるか、の時代を迎えたといわれるが、「手軽な離婚」を望む人たちには、好都合な条件がまた1つ整備されることになる。

離婚の件数はここ20年、増える一方だ。厚生省のまとめによると、1983年(昭和58年)には年間約17万9000件、1967年(昭和43年)当時の2倍余に達した。5組の結婚が成立する一方で、1組が別れる計算になっている。

こうした傾向を反映して、各自治体の法律相談窓口や、弁護士会に持ち込まれる離婚相談は、サラ金などの金銭問題、借地・借家問題と並んで群を抜いて多い。1984年春には、東京・新宿の離婚交渉業者が、警視庁に弁護士法違反で摘発されるなど、「離婚願望」の世相を反映して、離婚紛争を食い物にする者も増え始めており、第二東京弁護士会では対応を検討していた。

構想によると、「相談コーナー」では、第二東京弁護士会にある法律相談センターの弁護士メンバーが交代で数人ずつ、離婚相談を受け付ける。単なる相談なら1時間5000円。相手との協議離婚の交渉は、6万円の手数料で済む。

専ら離婚成立を目ざした短期交渉なので、復縁の可能性も考慮に入れた従来の弁護士料に比べて格安にする方針という。話がこじれた場合、家裁の調停や、民事訴訟を担当するベテラン弁護士の紹介も行う。常設機関は1985年(昭和60年)中に本格発足させるが、第二東京弁護士会ではとりあえず、1985年1月から3月まで月1回、東京・霞が関の第二東京弁護士会会館で臨時相談コーナーを開くことにしている。

第二東京弁護士会では「元のサヤに収まった方がよいに決まっているが、うまくいかない夫婦が我慢して一緒に暮らす時代ではなくなった。専門家がじっくり話を聞けば、離婚すべきケースかどうかはわかるので、無理に別れさせる懸念は不要だ」と話している。